記載内容は2021年3月現在。
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東海道・山陽・九州新幹線の新たな標準車両 |
記載内容は2021年3月現在。
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1999年の登場以来、東海道・山陽新幹線の主力としての地歩を築いてきた700系でしたが、最高速度は285km/hにとどまり、それ以前から300km/h運転を行っていたJR西日本の500系と比べて、所要時間の格差が生じていました。一方500系は、速度を追求したその構造故に客室が狭く、座席配置など他車両との足並みが揃わないことから、特に東海道区間では使い勝手の悪い存在となっていました。
2003年には新幹線品川駅が開業、それとともに東海道・山陽新幹線は「のぞみ」中心のダイヤとなりました。こうした動きもあって、JR東海・西日本両社の要求を満たす新たな汎用タイプ車両開発の機運が高まりました。
こうして700系の発展形であるN700系が、2007年7月改正と同時にデビューしました。この時点での運転本数は4往復(うち博多発着するものが3往復)にすぎませんでした。なお、このとき定期列車では初めて、品川始発となる「のぞみ99号」が登場。その7分後に続行する東京発「のぞみ1号」と、2本続けてN700系が走るダイヤとなりました。
N700系は、最高速度が500系と同等の300km/hとなりましたが、それだけでなく加速性能の向上や、カーブを円滑に通過するための車体傾斜装置の導入などにより、最高270km/hに抑えられてきた東海道区間でも若干の時間短縮が可能となりました。先頭の形状は700系と比べ、CGのポリゴン画像のような若干角張った面持ちとなっており、いかにもコンピュータシミュレーションの産物、という印象を受けます。
私は08年1月に、N700系に乗車する機会を得ました。まだ「新車の香り」のする車両です。
車体には大きく、「N700」のロゴが入っており、ひと目で判別できます。ただし車両番号を見ると、「N」のつかない700番台の数字が付されています。従って、「N」は対外的に従来の700系と区別するためのもので、内部的にはあくまでも700系の改良版という位置づけなのでしょう。
種別・行き先表示器には、フルカラーのLEDが採用されています。画面が大きくなり、停車駅なども表示されるので、まるで駅の案内板のようです。車内の客室出入り口上の表示器も大きく、くっきりとして見やすくなりました。また車両と車両の間には、隙間をすっぽり覆う幌が設けられています。凹凸をなくし、風切り音を軽減するためでしょう。このあたりにも「近未来の乗り物」という雰囲気があります。
N700系は、従来にも増して窓が小さくなり、まるで飛行機の窓のようです。0系と比べれば、1枚の面積は半分程度と思われます。窓際の席でなければ、外を見ることは難しくなりました。もっとも、高速で流れる車窓が目に入るとかえって疲れるので、むしろ小さい方がよいのかもしれません。(主な目的は、風切り音の軽減など、技術的な要素だと思いますが。)
車内はそつのない造りという印象。目を引くような奇抜さや豪華さはなく、まずは機能的といえますが、デッキの壁には落ち着いた配色のパネルを使うなど、目立たないながら要所は押さえている感じがします。なおこのN700系は、東海道・山陽新幹線では初めて全車禁煙となり、編成の4カ所に喫煙スペースが設けられています。嫌煙派の私にとっては実に有難いことですが、かつて自分の幼少時、新幹線の禁煙車など1,2両しかなかった時代のことを思うと、隔世の感があります。
さて、いよいよメインの「走り」に注目です。駅を出てからの加速は、これまで経験したことのないような鋭さで、まるで滑走路から飛び立とうかという飛行機のようです。一気にトップスピードに乗せ、その後はパワフルな走りでそのペースを維持します。小倉から広島まで、山陽区間で最も長い(最高300km/hのN700・500系は所要45分。700系だと47分)ノンストップ区間では本領発揮。妥協のない走りで突き進みます。
途中、減速を余儀なくされる徳山駅手前で、列車はスピードを落としてゆきますが、いかにも機械でコントロールされたような段階的な落とし方。(もっとも、私は意識しながら乗っていたのでそれを感じましたが、そうでなければ気が付かないことでしょう。)この自動制御の緻密さが、東海道の過密ダイヤにおいて威力を発揮するのでしょう。
N700系は静音性に注意が払われているとはいえ、窓側席だとやはり窓の風切りと、トンネルを出入りするときなどに車体の伸縮が感じられ、何となく気ぜわしい感じがします。落ち着いて乗っていたいのなら、むしろ通路側がよいのかもしれません。
N700系は2007年度中に24編成が投入され、まずは従来の500系運用を中心に置き換えが進みました。08年1月時点で、N700系「のぞみ」は13往復(うち博多発着は9往復)にまで拡大していました。
08年3月改正で、東京〜博多間の「のぞみ」毎時1本がN700系となったほか、N700系使用の「ひかり」も新たに登場。またこの改正から、すべての「のぞみ」が品川・新横浜に停車するようになりました。車両性能向上に伴い、同等の所要時間を保ちつつ停車駅を増やすのは、最近の傾向です。これにより500系「のぞみ」はわずか2往復となり、余剰車は8両編成化され、0系を置き換えて山陽「こだま」用となりました。この「玉突き」によって、長年山陽路を守ってきた0系は、ついに08年11月をもって全廃されました。
その後も徐々に「のぞみ」のN700系化が進められる一方で、700系の「ひかり」「こだま」運用が増える傾向にあります。2010年春には東海道・山陽直通の定期「のぞみ」がN700系に統一。2011年度までには計96編成のN700系を投入すると発表されていましたが、現に2012年3月の改正で、定期「のぞみ」がすべてN700系化されました。同時に、初代「のぞみ」の300系は全廃され、東海道区間が700系とN700系で占められました。
2013年2月からは、ブレーキ性能の向上や、定速装置導入などの改良が施された「N700A」が登場。従来のN700系にも、順次同等の改造がなされています。これらの車両更新に伴い、2015年3月の改正から東海道区間で一部の「のぞみ」が最高285km/h運転を開始しました。東海道区間での最高速度の向上は「のぞみ」が登場した1993年以来のこと。すべてのN700系がN700A相当の性能となったことから、2016年3月改正では更に285km/h運転が拡大しました。
N700Aに準じる改造が施された従来車には、小さいAのついたロゴが
新幹線の進歩向上の歩みは、まさにひとときも足を止めることがありません。さらにブレーキ改良(地震時の停止距離の短縮)などを施したN700Aが2019年度までに増備され、既存のN700、N700A編成にも同等の改造が施されました。
2020年春をもって「レールスター用」を除く700系が運用を退き、東海道・山陽新幹線の16両編成の列車はN700系に統一されました。そして2020年7月には、次なる新型「N700S」がデビューしました。つまりこれ以降、新しいN700系列で古いN700系列を置き換えることになります。
N700Sは車両編成システムの見直しにより、8両や12両編成に容易に組成変更できるようになっています。すべてが電動車であった0系を別にすれば、16両編成を短編成化するには大幅な改造が必要だったので、これは画期的な発想といえます。これは西日本区間での運用や、2027年に予定されるリニア中央新幹線開業を見越して、より柔軟な運用をできるよう想定しているのかも知れません。
「700」という数字の部分は替えずにN700、N700A、N700Sへと移り変わるこの流れから察するに、0系以降100,300,500系の試行錯誤から生み出された700系は既に新幹線車両の標準形を確立しており、あとは時代の要請と技術の進歩を反映させた“アップデート”を繰り返しながら新陳代謝を進めてゆくような気がします。時代背景や発想は異なるもののこの方式は0系と似ており、700ファミリーは0系以来の長期的な標準形になるのかもしれません。
2011年3月12日、九州新幹線(鹿児島ルート)が全通し、山陽・九州新幹線を直通する「みずほ」「さくら」の運転が始まりました。直通用にはN700系をベースに、九州区間の勾配にも対応した、8両編成の新車両が導入され、JR西日本所属車は7000番台、九州車は8000番台を名乗ります。塗装はやや青みがかった白色をベースに、紺と金色の帯をまといます。内装は和風を基調とし、「レールスター」から採用された4列指定席に加えて、半室グリーン車も設けられています。
新大阪〜鹿児島中央間が「みずほ」で最速3時間45分、「さくら」だと4時間強。「さくら」の停車パターンは、山陽区間内では従来の「ひかりレールスター」を踏襲しており、九州区間では新鳥栖・久留米・熊本・川内に停車するほか、すべての駅に新大阪直通列車が最低1本停車するよう配慮されています。
1日4往復(2012年3月改正からは5往復、2014年から6往復。その他臨時運転有り)運転される「みずほ」の停車駅は、新大阪・新神戸・(姫路・)岡山・広島・小倉・博多・熊本・鹿児島中央。山陽区間(新大阪〜博多間)では「のぞみ」と同等の扱いですが、定期の「のぞみ」はこれに加えて姫路、福山、徳山、新山口のいずれかに停まるので、「みずほ」は山陽区間内でも最速の列車ということになります。
2011年の開業時点ではひとまず、直通列車はおよそ1時間おき、このほかに九州区間内の「さくら」と、各停タイプである「つばめ」の一部、また山陽区間の下り「ひかり」の1便に使用。それに伴い従来の「レールスター」用700系は、500系と同様に山陽区間の「こだま」用への転向が本格化。12年春の改正でN700系が増備されたことから、「レールスター」として残っていた列車もほとんどが直通「さくら」に替わり、従来のレールスター用700系がさらに「こだま」に回り、これに置き換えられる格好で、長らく山陽区間に残っていた100系がついに引退しました。
N700系列の台頭は、新幹線の世代交代と再編成を一気に推し進めることになりました。