私が、兵庫県内のJR線の中で唯一乗っていなかったこの路線に、初めて乗る機会を得たのは、2000年8月17日。世間が盆休み明けを迎えた木曜日の夕方でした。
Mystery1:乗る前に切符回収
山陽本線列車が発着するホームの南側、一段低い場所に、兵庫駅の和田岬線ホームがあります。しかし、その手前になぜか自動改札機が・・・。
和田岬までの切符を挿入すると、反対側から出てくることなく回収されてしまう。チケットなし状態で列車に乗り込むことになります。和田岬駅が無人駅のため、いわばこの改札が和田岬駅の改札となるのです。
Mystery2:上り満員、下りガラガラ
改札機を通り抜け、いざ列車の待つホームへ。すると前方から、通路いっぱいに人の波が襲ってくる! ちょうど、和田岬から列車が到着したところだったのです。当然、降りた客の全員が通路に押し寄せるわけで、列は長々と続く。こちらはそれをかわすのに精一杯。
ようやく列車のところまでたどり着くと、列車は6両編成。大量の帰宅客を吐き出して、今や乗っているのは1両あたり2,3人ほど。
つまり和田岬線の使命とは、朝は「通勤客を兵庫から和田岬まで運ぶ」、夕方は「和田岬の帰宅客を兵庫まで輸送する」こと。その反対方向は、回送も同然というわけです。
Mystery3:右面と左面で形が違う車両
乗り込んだのは、「キハ35」と言われる、食パン形のディーゼル車両。今や和田岬線と久留里線だけにしか存在しない形式です。外装は水色に紺のライン。ナンセンスとも、「臨港線らしい」ともいえるデザインです。
天井では、おんぼろそうな扇風機が温風をかき回している。もっとも、あの大混雑状態では、ちょっとやそっと冷房をかけたところで、焼け石に水。5,6分のことだから我慢していただこう、ということでしょう。
さてこの列車、ホームに面する側には1両あたり3つの乗降口があるのに、その反対側には1つしかない。本来乗降口があったはずのところがふさがれています。これは、兵庫・和田岬とも同じ側にホームがあり、反対側は使われることがないためです。1つ残されているのは、非常口を確保するためでしょう。完全に「和田岬線仕様」になっている車両なのです。
Mystery4:ピストン輸送なのにタブレット
ピストン輸送なので、運転士も前へ後ろへ移動しなければなりません。ところが、その手にはなんと、かつてのローカル線の風物詩、「タブレット」が・・・。
同じ車両が行ったり来たりしているだけで、ほかから列車が入ってくるわけではないのだから、必要はないと思いますが、一応ルール上持っておくことになっているのでしょうか。
Mystery5:超スローペース運転
ガランゴロゴロンと、アナログな轟音を立ててドアが閉まり、いよいよ和田岬線の旅が始まります。
緩慢なペースで発進した列車は、本線から分かれて左へ大きくカーブします。下り勾配で若干加速すると、それ以上の加速はせず、のろのろと走りつづけます。まもなく阪神高速・国道2号の下をくぐります。すると右手に川崎重工の引込み線。工場からの搬出等に使われるそうです。
Mystery6:動かない「可動橋」
民家や工場などの間を進むうちに、列車は運河を渡ります。いよいよ臨海工業地にさしかかったという印象を受けますが、この運河にかかる橋は、実は可動式で、舟が通るときには橋げたを90度回転させていたそうです。・・・昔は。現在では固定されているとのこと。
なお、この橋は時速30km制限となっており、スピード面でのネックになっています。(逆にいえば、どうせスピードが出せないので、低出力のキハ35で事足れりとされているわけですが。)※この制限は、電化と同時に解消された模様。
2.7kmを5分かけて走るということは、平均の時速は30km/h強です。遅い速度のように思えますが、信号や渋滞に阻まれる自動車のことを考えれば、都会で確実に5分で移動できるというのは大きいのでしょう。
Mystery7:日中・休日は開店休業
さて、下が00年3月時点の和田岬線のダイヤです。(ピンクの列車が毎日運転、他はすべて休日運休です。)
兵庫発・和田岬行き | 和田岬発・兵庫行き |
7:00 7:20 7:39 7:59 8:10 8:45 17:15 17:40 17:59 18:23 18:52 19:44 20:15 21:00 |
7:10 7:30 7:49 8:09 8:29 8:55 17:28 17:50 18:09 18:38 19:09 19:55 20:28 21:10 |
平日には14往復運転されるものが、休日にはたった2往復。17時台にして、「最終列車」が出てしまうわけです。しかも、平日は6両編成なのが、休日には2両にされてしまうのです。2往復のために改札を開け、車両を切り離す手間を考えると、いっそ休日は完全運休にすればいいのに・・・とも思うのだが、そうもいかないか。
さらに、日中は全く列車が走らないというのもこの線の特徴。前述の通り、この路線は純然たる通勤路線。ラッシュの混雑はすさまじい限りですが、それ以外にはほとんど利用がないわけです。