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1.紀伊半島外周の旅 |
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2008年4月3日 灘→新大阪→和歌山→新宮→亀山→草津→灘 |
最近日帰りの旅行が増え、1日で行って帰ってこれる範囲内はかなり乗りつくしてきた感がある。そんな中でまだ手付かずだったのが、紀伊半島の外周をめぐる紀勢本線である。紀勢線は新宮を境に、東がJR東海、西がJR西日本のエリアとなっており、西側は97年に乗車しているが、東側は未知の世界だ。1日で乗りとおそうとすると厳しいので、これまで二の足を踏んできた。しかし、神戸まで車で走り、スタートを早めれば、なんとか日帰りでまわることができると分かり、今回の旅行を企てることになった。昨年に続く、春の「花見旅」である。
5:47発の各駅停車で灘を出る。この時間、まだ新快速どころか、快速も走っていない。ふだんならさっさと速い電車に乗り換えてしまうので、各駅各駅こまめに停車するのにはもどかしさも覚える。朝日が昇って景色が鮮明になってくる。沿線の桜は五分から七分、見頃にはあと一押しといったところ。和歌山方面だとちょうどいいあんばいか、と期待が持てる。
普通なら、大阪から大阪環状線経由で阪和線に入るところだが、今回は大阪を通り越し、そのまま新大阪へ向かう。これから乗る紀伊田辺行きの普通列車は新大阪発で、大阪を経由せず、梅田貨物線を経て環状線に入る。主に紀勢線方面への特急や、関西空港行きの特急「はるか」が通るルートであり、普通列車は朝の1往復と夜の下り1本しかない。そんな貴重な列車に乗ろうというわけだ。
この電車は旧式113系の4両編成。今や京都線・神戸線はJR世代の車両でほぼ固められてしまったが、阪和線には新旧相混じり、JR西日本らしい雑多ぶりをとどめている。おなじみの低いモーター音をうならせ、淀川を渡った電車は、本線から分かれて、広大なヤードの広がる梅田貨物駅の脇を進んでゆく。貨物線にお邪魔している立場ゆえか、走りはやや遠慮がちだ。それにしても、ビルの林立する都会のど真ん中に、こんな設備が堂々と残っているのは不思議な光景だ。
坂を登って環状線に合流し、西九条へ。ここで接続する阪神西大阪線の西九条駅は、JR駅を跨ごうとしてその寸前で工事がストップしたような形状になっていた。実際そのとおりで、何十年も前から難波への延伸計画がありながら進まず、西大阪線は中途半端な存在になってしまっていた。しかし近年ようやく工事が進み、2009年春に「阪神なんば線」として開業、近鉄と相互乗り入れできる運びとなった。急ピッチで工事の進むなんば線の高架が、JR線の頭上を通り過ぎていった。西大阪線には小学生の時以来訪れていないが、開通のあかつきにはぜひ乗りに来たいものだ。
西九条からは、通常の「紀州路快速」と同様のルートとなる。京セラドームや通天閣をちらりと見、天王寺から阪和線に入って行く。新大阪出発時点では席がざっと埋まる程度の乗客だったが、すでに通勤ラッシュの様相を呈してきた。この時間帯に4両、しかもクロスシートの車両では手狭だが、これから大阪方面へ向かって行く列車だとこんなものでは済まないだろうから、妥当な配置といえる。
時刻表には明記されていないが、阪和線内では「快速」の扱いとなる。快速として走る113系も、今となっては貴重だ。しばらく高架を走った後地上に降りるが、雰囲気はまるで私鉄。実際、阪和線は私鉄として開業した歴史を持ち、JRにしては狭くて短いホームなど、どことなく窮屈な沿線風景にその名残をとどめている。
しだいに郊外へと移り、日根野あたりから客は減少に転ずる。和泉砂川からの県境越えの区間では、谷に沿って桜が並ぶ。今は見頃のはずだが、水あかのこびりついた窓に朝日が乱反射して、いまいち景色がよく見えない。外側の汚れだからどうしようもない。トンネルを抜けると大阪府から和歌山県に移る。長い長い「紀州」の旅の始まりだ。
7:48に和歌山に着き、乗客がごっそり入れ替わる。車内は学生が主体になった。
これより紀勢本線に入ってゆく。この紀勢線というのが面白い路線で、正式には起点が亀山、終点は和歌山ではなく和歌山市、総延長384.2km。和歌山方は実質阪和線とひとつづきで、和歌山〜和歌山市間(3.3km)は枝線のようになっている。籍のうえでは「本線」なのに、列車はすべてこの区間のピストン運転で、和歌山以南へと直通する列車は1本もない。しかも終点の和歌山市駅は南海の管理駅と、なんとも存在感がない。
もうひとつ興味深いのが、紀勢線の新宮以西(JR西日本区間)では、阪和線に合わせて大阪→和歌山→新宮方面が下り、逆が上りのように扱われている。東京側から出て行く列車が「下り」となるのが通例だが、この区間に限っては大阪中心の観点となる。あくまで便宜上の扱いではあるが、東海側と西日本側がそれぞれ本拠地を中心にとらえているのが面白い。
今回はそんな紀勢本線を終点側から乗り通すが、スケジュールの都合で残念ながら和歌山市〜和歌山間には立ち寄れず、残る380.9kmを辿ることになる。
せっかくの桜の時期、名所として有名な紀三井寺で今日最初の途中下車。駅は真新しい橋上駅舎だが、まだ早い時間ゆえに観光客の姿もなく、ごく普通の町歩きだ。
しかしさすがに、寺の前は「門前町」の様相を呈し、立ち並ぶ土産物屋が店開きの準備をしている。朱塗りのあでやかな門を入り口に、斜面の建物を覆うように、山一帯に桜の花が連なっている。ただ、今の時間帯、方向的に逆光となるため、あまり花の色が映えない。寺に参る気も時間もないので、その様子をひととおり眺めて駅に戻る。
次にやってきた御坊行きの電車は、さきほどと同じ113系の4両。車内はリニューアルされているが、ゴトゴトとよく揺れるし、やはり窓は汚い。海南を過ぎると紀伊水道の展望が開け、いよいよ遠くにやってきたんだという気持ちが高まってくるが、みかん畑とコンビナートが同居するミスマッチぶりに苦笑する。ただ天気はよい。雲のほとんど無い青空で、今後の海の景色には大いに期待できそうだ。
箕島では、特急「くろしお1号」に抜かれるためしばらく停車する。白浜まで特急が1時間おきに走る紀勢線は、典型的な「特急街道」のダイヤだ。ホームの向かいを「くろしお」が颯爽と駆け抜け、小休止を経た普通電車はその後を追って再出発する。
連なるみかん畑を見ながらさらに進み、9:46に御坊に着く。次に乗る紀伊田辺行きは、2両のワンマン電車。ここ御坊からは、総延長わずか2.7kmの「紀州鉄道」が接続している。くすんだ緑色の、扁平な旧型車両が片隅に停まっているのを、通りすがりに何度か見たことがあるが、今はレールバスに置き換わっている。私の地元に近い、播磨の北条鉄道から移ってきたものだが、車体にパチンコ屋の広告が施され、雰囲気はがらりと変わっている。北条鉄道に残る兄弟は既に予備的な扱いとなって、週に1日しか出てこないが、こちらはバリバリの主力である。なお、緑の旧型も一応予備車として残ってはいるとのこと。
切目から再び海岸に近づく。岩代から南部(みなべ)に至る区間は、紀勢線のハイライトの1つ。海岸に沿って、浜を見下ろす高台を電車が走って行く。何度か通っているが、この区間ほどに妨げるものなく海を見られる区間はそうそうない。見渡す太平洋の水平線は、いつ見ても壮観だ。
沿線のキロポストに書かれた数字が300を切った。紀勢線の起点・亀山までの距離を表すこの数字は、今回の旅行のカウントダウンとなる。この数字が0となるのは、予定では午後7時19分。そのころにはもう真っ暗になっているはずだ。まだまだ先は長い。
紀伊田辺からの新宮行き電車は、同じ2両のワンマンだが、オールロングシートの105系だ。せっかくの風光明媚な紀勢線で、これに延々と乗せられるのは正直きついが、鈍行で旅する限り、この区間ではほとんどこの車両にしか遭遇しないらしいので、避けようがない。御坊そして紀伊田辺と、そのまま乗り換えた客が割と多い。特急メインの紀勢線だが、鈍行での移動を選ぶ人も少なからずいるようだ。
これより線路は単線となる。しばらく居眠りし、気づくと周参見の手前だった。周参見では、新宮行きの特急「オーシャンアロー5号」を先に行かせるための停車。
ここからはまた海が近くなる。電車は小刻みにカーブし、バウンドするように揺れる。振り子式を採用している特急車両ならそこそこスムーズに走れるが、ただでさえクッションの悪い105系では、かなりギクシャクする。
海岸をちらちらと見、トンネルの出入りを繰り返しながら、列車は串本へ。「本州最南端の駅」と大書きされた看板が目に付く。キロポストの数字は222。これより向きは北に転ずるが、まだ紀勢線の中間地点には達していない。串本の名勝、橋杭岩の脇を過ぎゆき、さらに進む。目を山側に転じると、もう新緑の色が混じり、その中に山桜が彩りを添えている。自分の地元よりは季節の巡りが1,2週間早い感じだ。
古座(こざ)からはさらにひなびた入り江の風景となる。海岸の地勢に沿って、カーブの続く線路を、電車はゆっくりしたペースで進む。水は澄み切り、岩場の底までくっきり見える。
ここで、今後の予定を考える。次に乗る亀山行きの新宮発は15:07。このままいけばこの列車は13:41に新宮に着く。だが下調べの段階で、新宮駅近くにこれといった見どころは見つからなかった。そろそろ105系にはうんざりしてきたし、1時間半を持て余す可能性を考えると、その手前で途中下車できないものかと思うが、次の普通列車は2時間半後なので遅すぎ、降りるとすれば紀伊勝浦で特急を拾うしかない。
そこで、紀伊勝浦の1つ先、紀伊天満で下車してみることにした。この1区間の距離は1.2km。JRの駅間としてはかなり短く、十分歩ける距離だ。紀伊勝浦から特急「スーパーくろしお9号」に乗れば、新宮でも50分ほどの滞在時間を作れる。