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1.正月の散々初フライト |
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私にとって北海道は、長年の憧れの地、達しがたいはるかなる地であった。
まず時間がかかる。そして費用。飛行機だと普通に切符を買えば片道35,000円ほどかかり、なかなか手が出せるものではない。フェリーは時間がかかるし、季節によっては海が荒れて大変だとも聞くから、躊躇してしまう。
さて、2000年も残り少なくなり、恒例「年末年始の雪見旅」の季節が近づいて来た。しかし、「青春18きっぷで2-3日乗り通し」という従来の方法では手詰まりになってきたうえ、昨年末の旅行では2度も気分が悪くなるなど、ただ鈍行ばかり乗りっぱなしで距離を稼ぐのもきつくなってきた。
そんな折、朝刊の社会面の端に偶然見かけた新聞広告。
「元旦きっぷ」。2001年の1月1日に限り、全便が最大70%OFFと。早速JASのサイトでチェック。大阪〜千歳は12,350円。一気に心が動く。(ちなみに、全日空のHPも調べると、こちらは元旦全便10,000円という大盤振る舞い。しかし残念ながら、千歳行きはすでに満席となっていた。)
結局JASの朝一番の便をインターネット予約で確保し、無事購入。私にとって、初めての北海道であると同時に、初めてヒコーキに乗る切符でもある。その記念すべき日付は21世紀最初の日。JASに感謝!
もっとも、今回の北海道は、将来じっくり巡るための「下見」という位置付けで、実質滞在は1日弱。あとは毎度のごとく、18きっぷの乗り継ぎ旅となる。ただし、夜行で休みなしの乗り通しはさすがにしんどいので、途中秋田で1泊をはさむことにした。
夜行快速の「ミッドナイト」(札幌→函館)と「ムーンライトながら」(東京→大垣)は、18きっぷシーズンの席確保が難しいので、発売当日の午前中にJTBに赴く。それでも席は通路側、しかも「ながら」は、名古屋で切り離されてしまう9号車になってしまった。この時期の夜行快速の指定席は、年々取りにくくなっているようだ。
宿は、「旅の窓口」(注1)というサイトから予約すると、定価では8,000円を越えるビジネスホテルが5,500円で泊まれるというウソのような話。いぶかりながらもサイト上にて予約。便利な世の中になったものだなあと思う。
懸念された体調は非常に良い状態をキープして、出発前日(すなわち20世紀最後の日)を迎えた。ところが天気予報を確認すると、1月1日の札幌は見事、「雪」。風が強く、ふぶくとも。予想天気図を見ると典型的な強い冬型。父は「これじゃ飛行機も飛ばんのちゃうか」と、悲しいことを言う。
まあ今回は、北海道の偵察に行くようなものだから、それも「らしくて」いいか・・と無理やり自分を納得させて、出発のときを迎えた。
2001年1月1日 神戸→伊丹空港→新千歳空港→小樽→札幌→岩見沢→札幌(→函館) |
2001年1月1日。朝起きたのは4時過ぎ。21世紀初めての朝だが、ピンとこない。私にとってはそんなことより、目の前にある初フライト、初北海道の方が大事なのだ。
早朝の神戸駅。毎度おなじみ「青春18きっぷ」を購入してホームに上がる。旅立ち列車は、博多からやってきた夜行快速「ふるさとライナー九州」。今から北海道へ行こうというのに「九州」という名の列車に乗るとは、不思議な気分がする。。真っ暗な中を、客車快速はカラカラと軽快に走り、大阪へ。
大阪空港へは、大阪か新大阪からバスに乗るのが正攻法。しかし、あまりにあたりまえなルートもつまらない。そこで選んだのは・・・。
福知山線の通勤タイプ電車に乗り換え、伊丹へ。伊丹の空港なのだから伊丹から入るべきでしょ・・というのは建前で、少しでもバス代を浮かせたいがため、というのが本音である。ここでひとまず青春18きっぷは封印。次にこのきっぷを取り出すのは、はるか遠く新千歳だ。
駅前から出る空港行きバスは、何の変哲も無い、そこらを走るただの市バス。狭い座席に身を縮め、大きな荷物を抱えて15分・・大阪空港へ。バスやタクシーがわんさと並ぶ。対峙するかたちで大量の宣伝看板が競って自己主張している。これぞ「大阪の玄関」だ。
鉄道旅行に関してはそれなりに経験ありと自認する私も、飛行機に関しては全く未知の領域で、心もとない。とりあえず、流れのままに搭乗手続きとやらを済ませる。「何や、簡単やん」・・と、ここまでは。
出航までは時間があるので、展望台に出て離陸する飛行機を眺める。JAL、ANA、JASの旅客機が、次々滑走路へ出ては飛び立ってゆく。もうじき、ああやって札幌へ飛ぶんだ・・と期待が高まる。展望台には、ものすごい望遠レンズを付けたカメラでその姿を追う人たちも。しかしあいにく、雲が空全体を覆って薄暗い。そして寒い。カメラを握る手がかじかんできた。
こんなところで風邪でもひいてはシャレにならないので屋内に戻り、乗り場へ向かう。入口にはゲートが。「これが金属探知機ってヤツだな・・」。手荷物やポケットの中身をかごに入れ、これで大丈夫だろうと満を持してゲートをくぐると・・。
「ピー」
すぐさま係員に呼び止められ、もう一度くぐらされる。
「ピー」
「ネックレスのような、金属製のものを身につけてませんか」と問われる。そんなものつけていない。焦った。
でもすぐに思い出した。閉じ込めに備えていつも胸に入れていた車のキーが、入ったままだったのだ。すぐさま取り出して、無事通過。
ほっとしたのもつかの間、そのあと確認すると、搭乗手続きで荷物を預けた際に受け取った伝票がない。探しに戻ろうにも、ついさっきゲートで引っかかったばかりなだけに気が引ける。向こうで事情を説明するしかない。
そんなこんなの末乗り込んだ飛行機は、機内は古ぼけた感じで、薄暗く狭い。指定された席は窓側だった。
いよいよ出航時刻。ところが動き出す気配がない。「荷物の積み込みが遅れているため、出発が遅れます」とのアナウンスが流れる。
結局、8時20分出発の予定だったのに、ようやく機体が動き出したのが35分ごろ。空港の場内をゆっくりごろごろと進む。大阪空港クラスにもなると、滑走路までが遠いのか、その時間がまた長い。そうこうして、ついに滑走路にさしかかる。一瞬止まり、そしてものすごい勢いで加速。車輪の激しい振動が伝ってくる。その振動がやむと同時に、機体がふわりと浮き上がる。8時45分、離陸の瞬間だった。
空気抵抗と重力に逆らいながら、機体はかなりの角度で上昇にかかる。伊丹の街並みが遠ざかり、あっという間に眼下に去ってゆく。心なしか、心拍が上がるような感覚。単に緊張のためだけではなく、気圧か何かの影響もあるのだろう。体にいい乗り物ではないなと思う。
航空写真のような下界の風景に、もやがかかったような感じになり(実際には飛行機が雲の中に入った)、間もなく空がぱっと晴れ渡ってきた。雲の上に上がってきたのだ。どこまでも青い、澄みきった空。これまでに見たことのない色の空。
そして眼下には、こちらも果てしなく広がる雲海。飛行機が更に高度を上げると、雲が層になっているのが一目瞭然。最初は感激したものの、時折すきまから地上の風景が見える以外はほとんど雲ばかりで、しだいに飽きてくる。
離陸から15分ほどしてようやく機体が水平になり、ベルトを外していいとのアナウンスが流れる。だが、その割には揺れが収まらず、風切り音も激しいまま。どうやら風がかなり強いらしい。常に揺さぶられているという感じで、時折さらに強い振動が来る。注いでもらったコーヒーがこぼれそうになる。ひどいときに乗ってしまったものだ。
下に雪山が見えてきた。下界にいれば見上げんばかりのアルプスも、上空から見ればまるでミニチュア模型を見ているかのようだ。
9:20ごろ、パイロットじきじきのアナウンス。いま新潟上空、高度1万メートルとのこと。見当もつかない高さだが、このあたりがピークとなるのだろう。大阪からここまで約40分、千歳まではあと1時間ほどで着いてしまう。離陸の手間取りにはいらだったが、上がってしまえばたいしたものだ。
乱気流が激しく、しまいに乗務員も席についてしまう。離陸からちょうど1時間、9時45分には、着陸態勢に入るとのアナウンス。再びベルトを締めさせられる。
一旦海の上に出て、まもなく陸が見えてきた。「おお、これが北海道か!?」 ところが再び海上へ。どうやらさきほどの陸地は下北半島だったよう。フェイントを食わされたが、いよいよ北海道は間近だ。飛行機は雲の層を突っ切り、眼下には海が広がる。そして今度こそ正真正銘の北海道。平たい大地は雪化粧している。千歳到着は目前だ。
ところがここへきて、飛行機は階段状に高度を下げにかかりだした。エレベーターが止まるときのような大きな縦の揺れで、これまでの振動の激しさとあいまって、たちどころに気分が悪くなる。
雪の原野のようなところからぐんと高度を下げ、飛行機はそのまま千歳の滑走路に突入。雪が積もり、所々凍っているように見える滑走路だが、飛行機の着陸には支障ないらしく、機体はそのままするすると減速。新千歳空港到着は10時25分、定刻より20分遅れとなった。せっかくの念願の北海道上陸も、気分が悪くて感激も半減だ。
コンベアを流れてきた自分のかばんを拾って、出口へ。伝票をなくしたことを係員に告げると、「一番上に入っていたものを覚えていますか?」・・む、覚えていない。「では、ご本人の名前など記されたものは入っていませんか?」・・幸い、「旅の窓口」のメールを印刷したものが入っていた。これがなければ、一体どうなっていただろう・・ 住所氏名電話番号を書かされた上で、何とか開放してもらう。
かくして、私の散々な生涯初フライトは、とりあえず終わりを迎えたのだった。
ともあれ、せっかくの「初北海道」の感触を味わいたいので、憂さ晴らしをかねて千歳空港を歩き回る。広い。ぴかぴか。人が多い。リトル北海道とでも言おうか、みやげ物屋が並び、ここだけで北海道のものはあらかた揃いそうだ。
屋内の展望所から空港を眺める。広々とした敷地には、滑走路の部分を除いて雪が積もり、時折細かい雪がさーっと舞う。これまで見たことのない雪景色だ。
ようやく「北海道上陸」の気分が高まってきたところで、地下のJRホームに移る。1月1日の神戸駅の印が入った青春18きっぷを取り出し、改札を通る。神戸から5時間ばかりで北海道とは、鉄道だけならありえない。改めて飛行機のスピードを感じる時だ。
新千歳空港と、北海道の中核である札幌・小樽・旭川方面を結ぶ快速「エアポート」は、さすが北海道で最初に乗る列車とあって、JR北海道も「看板列車」として心血を注いでいると見える。721系電車は半室構造、デッキ付きで転換クロスシート、走りはとても静かで、それでいてパワフル。料金不要の車両としては最高ランクに位置づけられるだろう。
地上に出た千歳からは、雪模様の中積雪を巻き上げながら爆走する。車窓を流れていく景色は広々として開放感があり、民家は全般に幾何学的な形状をしている。しかし札幌が近づくにつれ雪は強まり、視界が悪くなってきた。今日は札幌と小樽の観光を予定しているが、札幌は天気が悪いので後に回し、先に小樽に向かうことにした。
札幌でいったん列車を降り、とりあえず一旦荷物をコインロッカーに放り込む。今日は最後に夜行快速「ミッドナイト」で札幌を発つ予定だから、それまでは入れっぱなしでよい。身軽になったところで、次の「エアポート」で小樽を目指す。よく見ると、雪が踏み固められて真っ白になっている道路を、車が走ってゆく。凍り付いてはいないのだろうか・・?
1. 現「楽天トラベル」。